6月に入り本格的に製作を開始した「蓮」。なかなか思うように作業が進まず、ブログでも作業風景のアップができていませんでした。やっと作業に一区切り付きましたので、今日から3回くらいに分けてこの「蓮」ができるまでをご紹介したいと思います。

1回目の今日は、作品のテーマが決まってから、実際に本番の作業に入る前までをご紹介します。

4月の上旬に、「JRタワー アートプラネッツ展2015」への参加を打診するメールが、展示会を運営する会社より私に届きました。実はこの展示会は展示会の実行委員からの推薦があった作家のみが参加できるもので、私も「フラノ寶亭留の展示会を見て」とおっしゃる実行委員のお一人がご推薦下さったとのこと、嬉々として参加する運びとなったのでした。
展示会から展示会へと繋がっていくことは、作家にとって非常にありがたいことであり、理想の状態とも言えるかもしれません。
誰に見てもらえるのか、という思いは、特に展示会用の作品を作っている間中、心の中にある疑問と不安であり、そしてモチベーションが続くパワーにもなっているのではと思います。

そんなこともあって、今年はとにかく年間のスケジュールが早い段階で決まっていたこともあり、「旧作でもいいですよ」と運営担当の方におっしゃっては頂いたものの、ここはやはりご覧いただく方の期待にお応えしたい・・・という思いから急遽新作を製作することに決めました。
展示会は7月の初夏。爽やかな作品になるように、と夏の草花からテーマを探すことにしました。

候補はいろいろあったものの、以前から好きだった「蓮」の花をモチーフに選び、印象的な大きな葉と共に、「大胆」さと「繊細」さを併せ持つ作品になるようスケッチを始めました。
縦向きか、横向きか、作品の大きさはどれくらいか、そのスケール感の違いで作品の印象は全く変わります。
今回は一面に咲く蓮の花と輝くような緑の葉を、あえて縦向きにデザインし、花の色も紅白の2種類、葉もその裏表で微妙に異なる緑の色合いを2種の木を使い表現することにしました。

スケッチから下絵づくりに入り、何度も構図を考え直しては書き直すこと3日間、やっと下絵ができあがりました。
幅65CM、高さ180CMのものを2枚。それぞれに微妙に異なる構図にすることによって、並んだ2枚がそれぞれに上から下、左から右、と波打つようなリズムを感じてもらえるように、最後まで悩んで仕上げた下絵になりました。

木象嵌 蓮の花

テストで作った花の見本

私の木象嵌は以前のブログでも書いたように、着色、彩色を全くしない天然の木の色だけを使った表現のため、使う木の配色で作品のイメージががらりと変わってしまいます。
今回は特に大きな作品のために、簡単にはやり直しはできません。そこで一番の要となる花の色についてテストピースを製作してみました。写真の上から、チェリー、カバ、ニヤトーでそれぞれ同じ花を嵌めてみます。
当初、材料の裏表で表現が多彩になるニヤトーが有力候補でしたが、実際嵌めてみると上のチェリーの方がはっきりと色が出て雰囲気がいいため、今回は紅い花をチェリー、白い花をシラカバで嵌めることに決めました。

背景となる木にはサペリを選び、いよいよ下絵を写し取っていきます。

下絵はトレーシングペーパーに書き込んでいるので、これをカーボン用紙を使って木に写し取っていきます。
2枚分、なかなかの作業量です。うっかりすると写し漏れができるので、慎重に慎重に作業していきます。

やっとここまで漕ぎつけました。象嵌の作業の時間と、その前段階までの時間は、ほぼほぼ同じくらいかかっているかもしれません。ですがここまでをじっくり時間を掛けてやることで、出来上がるものの善し悪しが大きく変わってくるため、とても大切な作業だと自分では考えています。

白の蓮の花のテスト

白い花 拡大写真

した絵

下絵を写し取ったところ

次回はいよいよ本番に入ります。

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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