ギャラリーや美術館で作品を見つめる。
人と出会って、その人の話し方や想いを知る。
出会いの一瞬は歓びの瞬間であり、美しいものや人に出会った時の人の表情は輝いていると思います。
そんな美しい光景が、この木象嵌によってもたらされたら・・・。


私の想い  

私の木工の原点は、少年時代に見た一枚の木版画でした。
映りこんだ木目の美しさを見た時の感動と驚きは、私の心に深く刻まれました。
その想いは今もなお、私の制作活動の支えとなっています。

以来、「木と向き合う」ことだけを考えひたすら制作に打ち込んできました。
どんな空間にも似合う「シンプルな家具」。


自然の木の色、木目を生かして作る「木象嵌」。
日本の直線美と北欧のモダン。
「自分に恥じない仕事をしたい」
その想いでこの30年ひたすらに作ることに向き合ってきました。

私はもともと家具職人を目指して日本各地、そしてスウェーデンでも技術を学んできました。
家具を作る技術、そして象嵌を作る技術。
このどちらも好きで好きでここまで走ってきた気がします。

ですので私にとっては象嵌も額となるフレーム家具を1から10まですべて作ることは当たり前のことなのです。
すべての工程を一人でこなすことで、一つ一つの作品のその隅々までを作り込むことができると感じています。

たくさんの方に作品をご愛用頂き、「優しい気持ちになる」「毎日見ているのに、毎日感動します」と言ったご感想をいただくことは本当にありがたいことです。
「何年経っても、島田さんの木象嵌を見ると、それだけで気持ちが穏やかになるんですよ。木のものって、やっぱり人の心を温かくするんですね。」とおっしゃって下さる方もいます。
そんな言葉に励まされて、日々制作に打ち込めると思っています。

象嵌の制作は一つ一つ手作業ですすめるため、時間と手間がとてもかかります。
でも、色や木目を丹念に組み合わせることで浮かび上がってくる木の表情は、やればやるほど面白くて時間を忘れて作業に没頭してしまいます。


2007年に日本人としては初となるスウェーデン家具マイスター(スウェーデン国家資格)の称号をいただきました。
私にとって本当に嬉しい出来事であり、プライドを持って仕事をしなくては、という新しい決意にもなりました。
スウェーデンでの展示会も開催することがあり、架け橋としての仕事にも誇りを持てるようになりました。


これも多くの方に支えられて実現できたことです。マイスターとして自分にしかできない「木仕事」、自分にしかできない作品作りをもっと追求したいと思うようになり、日本ではあまり作る人のいない「木象嵌」と「木象嵌家具」を作る事で、「唯一無二」のものづくりを目指しています。

数年前、自分の作っている作品が「工芸」なのか「アート」なのかと考えていたことがありました。
そんな時に「藝」と書いて「わざ」と読むことを教えて頂く機会があり、それを知って新しい道を発見したような気持になりました。
「技」を「藝」に変えてゆく。
それは私の作家としての使命であり、打ち込むべき道のように思っています。

そして今、日本の伝統工芸にも挑戦することで、自分の木工技術の更なる髙見を目指しています。

とても奥の深い、また多くの技の研鑚が必要とされる世界です。教えを請う先生もいて下さり、少しずつですが自分でも手ごたえを感じる作品を作れるようになってきました。

2021年の東日本工芸展では「朝日新聞社賞」を2023年の伝統工芸展では「第70回記念賞」をいただきました。
大きな喜びと共にとても励みになる入賞でした。

これからも、工芸とアートのはざまで、存在感のある作品を作り出すことをテーマにしようと決意を新たにしています。

今日もまた工房で「木」と向き合っています。
自分の木仕事が多くの方と縁を紡いでいくことの幸せを感じております。

2024年4月