札幌 I邸 「Forest&Stones」

お客様から「工房に象嵌を見に行きたい。」とお電話がありました。
当別町のお隣、札幌の方からでした。
「どうぞ、どうぞ!」と申し上げると、時間を置くことなくすぐにおいでになりました。

しかしながら、象嵌はほとんどがオーダーで作らせて頂いています。
また、大きな展示品は富良野にあるフラノホテルのギャラリーで展示しており、手元にある作品をご覧いただくことになりました。

この方はご自宅とそして時々お帰りになるというご実家に、それぞれ作風の違う作品を掛けたいと考えていらっしゃいました。

ご自宅には抽象的な作品を。
そしてご実家には植物の象嵌を、とのことでした。

私は抽象的な作品も、植物を細かく図案化したものも、そして犬や猫といった動物の作品も手掛けています。
あれもこれもとなりたくないのですが、自分でもどれも好きで何かに絞れないので欲張りに全部やっています。

このお客様のように「抽象的」「植物」といった違うテーマのものをお一人でお求めになる方は少ないので、今回のお話しは私の心をとても温かくしてくれました。

工房を訪ねてくださってから数日後、「まずは自宅の象嵌を先に作って欲しい。」とご連絡がありました。
そして選んで下さったのは「Forest」という作品でした。

最初に作ったForest 3部作

この作品は3部作構成で、初めて制作したのはもう10年以上前になるかと思います。
出張で訪れていた夏の東京で、雑踏の人込みと暑さのなかで突然頭に浮かんだ深い森の情景を描いたものでした。
昼と夜の森を2色の樹種をつかって表現し、森の木々を抽象的に描いたこの作品たちは私自身もとても好きな作品の一つです。

そして、この「Forest」にプラスして、お客様の持っていらっしゃったテキスタイルの柄を一緒に描けないかというご依頼になっていきました。

このテキスタイルは北欧的で、私にとってはとても身近に感じられるデザインでもありました。
見ているうちにこの形が「石」に思えてきて、作品の構図も頭に浮かんできました。

それがこの「Forest&Stones」の作品の由来です。
大地のその下、地中の石と土。
その上にしっかり根を張った緑の森。

お客様からのご依頼を受けて、また一つ素敵な世界が広がるのを感じました。

大きさ、使う木の種類、組み合わせ、それらをお客様に確認して下絵作りが始まりました。
実際に絵に起こしてみると、石の大きさで見る印象が大きく変わりました。

テストピースも作り、石の大きさと個数、そして森の木のイメージも確認して象嵌作業を開始です。

テストピース用の下絵

色の組み合わせを見るために数枚のテストピースを制作

少ない樹種での制作は、木目が重要になってきます。
光の加減で見え方が変わるので、実際に飾るお部屋も頭の中に置いておきながら作業を続けました。

出来たのがこちらの作品です。


作品をご覧いただいたお客様、そしてご主人様にもとても喜んでいただけました。
ホッとしました。
直接お届けできるお客様にはこの作品を見た瞬間のお喜びを見せて頂けるので、本当に嬉しい限りです。

直接お届けできるのは、車で1~2時間以内の場所でしょうか。
お客様のご希望で旭川くらいには行ったことがあったな・・・と思います。
でも、「直接」お渡しできることは幸せだと思っています。
今回も本当にありがたいことだと感謝の気持でいっぱいになりました。

「森」と「石」の象嵌は、これからも静かにお客様のお部屋で佇んでいくことと思います。
緑豊かな今の時期、工房の窓から見る森の木々を、次はどんな風に作品にしようかな。
「石」のさらなる展開はどんな感じになるかな。

一つの作品からまた次の作品へ。
明日からもそんな想いを大切に木に向かいたいと思います。

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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