「愛犬象嵌」というネーミングで、大事な愛犬を象嵌にするという仕事をここ数年やらせてもらっています。
大事な家族、大切な友達・・・。
想いのありったけを象嵌に込めたい、そんな飼い主さんの深い愛情を一つ一つ作品として作らせて頂いてきました。
そして、昨年頂いたお話は、4匹の大型犬と1匹の黒猫、その5匹を一枚に収めるというものでした。
これまでに作って来た象嵌で、一枚の中に納まった最高頭数は3匹。
そして、コーギー、ダックスという小型~中型犬のものでした。
今回は、ゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパード、ホワイトシェパード、英国ゴールデンレトリバー、そしてそんな大きなお姉さんたちに可愛がられている真っ黒い猫くん、の5匹です。
お話しを頂いたころ、Sさんご夫婦はキャンピングカーで北海道をご旅行されていました。
フラノ寶亭留にも足をお運び頂き、私の展示会もご覧になってくださいました。
すでに2匹は他界されているとのことで、ホワイトシェパード、英国ゴールデンレトリバー、黒猫とSさんご夫婦の2人と3匹でのご旅行の様子は、なんだかとても楽しそうですっかりワンチャン、猫ちゃんと会ってみたくなるほどでした。
北海道から戻られて間もなく、みんなの写真を一斉にお送りしていただき、下絵の案を考えることになりました。
頂いた写真はどれも可愛い。
可愛すぎる。
そして、この大型犬たちの仲の良さそうな様子、そこに来て猫に注ぐ愛情もしっかり写真からくみ取れます。
実はこの黒猫のヤマト君、Sさんがへその緒がついたままの状態で保護したのだそうです。
目もまだ開かないような生まれて間もないその子猫に、哺乳瓶でミルクを飲ませ、指でそっとなでて排泄を促し、と、お世話が始まったそうです。
とても家に置いておけないので、職場にこっそりと連れて行ってお世話を続けたそうです。
この時そばで見守っていたのは、ゴールデンレトリバーのミルクちゃん、ジャーマンシェパードのライムちゃん、そしてホワイトシェパードのトワちゃんの3匹でした。
みんなこの小さな赤ちゃんに興味津々だったそう。
でも、「猫」が好きというわけでは決してなかったようで、隣の家の猫には猛烈に吠えたてていたそうです。笑
かくしてみんなに見守られて大きくなってきたヤマト君、パチッと目を開けて上を向いたら大きな犬のお姉さんたちがじーっと自分を見ている。
犬のお姉さんたちもお母さんのSさんがお世話をしていた様子をちゃんと見ていたので、この可愛い弟を大切に見守る日々が始まりました。
じゃれつかれても怒らず、一緒に遊んでいる姿もごくごく当たり前の景色に・・・。
それが日常となり、ヤマト君はすくすくと大きくなったそうです。
やんちゃ坊主のヤマト君、みんなにじゃれながら成長し、一番の仲良しは身体が一番大きなホワイトシェパードのトワちゃん。
身体は大きいけれど優しいトワちゃんもヤマト君が大好き。
白と黒、犬と猫、それだけで心が温まる2匹の写真です。
長女はゴールデンレトリバーのミルクちゃんで、みんなの面倒を見るしっかり者のお姉さんだったそう。
シェパードのライムちゃん、ホワイトシェパードのトワちゃん、2匹の妹たちはこの長女のミルクちゃんが大好きだったそうです。
みんな優しい性格で、お散歩が大好き!
ただ、ミルクちゃんとライムちゃんはまもなく先に天国に旅立って行きました。
そして散歩が大好きだったトワちゃんは、一人でお散歩するのが寂しいのか外に出てもすぐに家に帰りたがるようになったそうです。
元気もない様子にSさんは心配が募り、ある決断をしました。
トワちゃんの妹として、英国ゴールデンレトリバーのナギちゃんを家に迎えることにしたのです。
ナギちゃんはもともと生まれてすぐにシンガポールに住む方の元に行くことになっていたそうです。
ただコロナのせいで日本から出ることが出来ず、5ヶ月になるまで名前も無いまま施設で過ごしていたとのこと。
Sさんがナギちゃんに初めて会いに行ったとき、ナギちゃんはSさんの足元にすっと来て伏せていたそうです。
「なんておとなしくて素晴らしい子だろう・・・」
施設を出た日の車の中でSさんの膝枕でぐっすり眠っていたナギちゃんは、新しい家族の一員としてS家での生活が始まりました。
Sさんの深い愛情とトワちゃん、ヤマト君のいる温かい家。
ナギちゃんはこれまでの一人での寂しさとは無縁の世界で、自由闊達に過ごす毎日が嬉しくてたまらなかったのだと思います。
賑やかな日々が再び訪れ、ナギちゃんのいたずら好きにSさんは時々悲鳴を上げながら3匹との暮らしを楽しまれています。
Sさんはこのほかに家でメダカを数種類飼っていたり、蓮を栽培したり、お仕事と犬たちとの毎日とそれはもう目の回る忙しさだと思います。
でも、「うちの子たち」と呼ぶその5匹たちへの深い愛情は、メールで様子をうかがうたびにしっかりと伝わってきました。
下絵をかなり時間をかけて描いてみました。
やっと納得いくものとなり、SさんからのGOサインを頂きました。
いよいよ試作を始めます。
4匹の色合いを考えて材料の色味や種類をいくつか考えましたが、結局試作しているとあれこれアイディアが湧いてきて、数枚の試作が出来てしまいました。
とくにミルクちゃんは色のチェックもしたかったので結局かなりの枚数に・・・。
続いて、他の3匹も作ってみます。
途中私の個展が間に挟まってしまい制作を中断させて頂きました。
ただ、Sさんは遠路はるばる個展にも足を運んで下さり、実際に試作を見ながら打合せができたのはありがたかったです。
みんなの試作が出来ました!
いよいよ本番スタートです。
身体全体を象嵌するため、下絵はさらに数度書き換えました。
試作を見ながら、本番はさらに細かく修正を加えながら進めます。
ヤマト君もみんなに囲まれる位置に入りました。
完成です!
年内にお届けを目指していましたが、年を越えてこの1月に納品させて頂きました。
お受け取り頂いたSさんからもすぐにご連絡を頂きました。
「今日無事に受け取りました。
傷や破損は全くありません。
主人も先ほど帰宅し、二人で眺めていました。
本当に素晴らしいの一言です。
我が家の宝物になりました。
地震が起きたら担いで避難しないとです!
ライムもヤマトもとてもいいです!
ヤマトの目は金色の部分が木目を使って上手く表現されていて、今にもキョロっと動きそう。
ミルクやライムの爪もちゃんとあって感動しました。
長い期間携わっていただき、本当に感謝です。
ありがとうございました。」
こちらこそ5匹に囲まれた一年間、本当にありがとうございました。
いつまでも5匹一緒のこの一枚がSさんの毎日と共に歩んで頂けることを心から願っております。
投稿者プロフィール
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1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。
お問い合わせ→こちら
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