この度、第61回東日本伝統工芸展に於きまして、「朝日新聞社賞」を頂きました。
伝統工芸展に挑戦して4年目での入賞に、心から嬉しく、またご指導いただいたすべての方々に心からの感謝を申し上げたいと存じます。

今回は工芸展の事務局でも、一人でも多くの方に作品をご覧頂く機会を、ということでこんな動画を制作していました。
第61回東日本伝統工芸展 入賞者作品

ぜひご覧になってみてください。

さて、昨年からのコロナ禍も、一年を過ぎて尚感染の拡大に歯止めがかからない現状ですが、私自身を顧みても、大きな展示会が中止となったり、打ち合わせが延期となったり、少なからず影響が出ています。

この伝統工芸展でも、本来ならば審査、鑑査委員の諸先生方からいろいろなアドバイスを頂けるはずの研究会などは、すべてキャンセルとなってしまいました。
昨年はとうとう春の東日本工芸展での入選についての講評も、全体の講評のみが紙面で送られてくるという事態となり、北海道では得ることのできないたくさんの情報を頂けるチャンスを逃してしまうという事になりました。

モヤモヤした気持ちのまま、秋を迎え、偶然のことからある展示会が東京で催されることを知りました。
それは、人間国宝でいらっしゃる須田先生がメインとなって作品を出されているもので、先生も在廊することを知り、居てもたってもいられず、少しコロナの感染が落ち着いていた東京に思い切って飛びました。

実際に先生の作品を近くで拝見しながら、会場でお時間を頂くことができ、先生にいろいろとお話をお聞きする機会を得ながら、また多くの疑問に答えを頂いた貴重な経験でもありました。
厳しいお言葉も頂き、そんなことも一言も漏らすまいとノートに夢中でメモしました。
そんな経験もこの歳になってからは本当に久しぶりのことです。

帰りの飛行機の中、ノートを見返すと、苦笑いの連発です。
自分では思っても見なかった、ここかしこのやり直すべき点の数々。
北海道にいることが恨めしく思うほど、直接見る機会、話す機会があることがどれほど価値のあるものなのか、このコロナ禍で改めて思い知り当別に戻りました。

季節はめぐり、外は冬。
真っ白な世界が広がる窓の景色を見ながら、また一人きりの制作時間を重ねていました。


伝統工芸の仕事は、何と言っても時間との闘いであり、自分との忍耐の戦いでもあります。

今回は北海道産の楡(にれ)の木を使い、また、同じ楡でも「神代楡(じんだいにれ)」という長い年月を地中の泥の中で過ごしていた材を使います。

神代、とは神代木(じんだいもく)と呼ばれる木で、いわゆる埋もれ木です。
太古の代から埋もれていて、千年以上経過したものを「神代」と呼んでいるようです。
多くは自然に倒れたものが、長い年月、川の土砂などに埋もれていて、それが現代になって土木工事などの際に出土したものを材料として使っているのです。

多くは、黒みを帯びた灰色になるのが特徴です。
そして、その長い年月をかけて材として熟成されたものであることから、伝統工芸に限らず、高級材として珍重されています。

ここで問題がありました。
この材はいまお話したように、市中に出回っている材とは少し違うということです。
自分の欲しい厚みや大きさにするには、自分で加工しなくてはならないという事です。
そこから制作が始まると言っても過言ではありませんが、木は環境に慣れるために反ったり割れたりと言った現象を引き起こしながら乾燥していくものです。
ですので、まず、制作に使える材料をそろえるだけでも一苦労する、と言ってもいいと思います。

この楡木画飾り箱も、箱の表面、そして蓋の裏、箱の底、と象嵌する面積が見た目よりもあり、寸分狂わずつないでいかないとならない作業の連続は、本当に疲弊しきること度々です。

降りしきる雪を見ながら、コツコツ、コツコツ、作業が続きました。
上手くいかず、投げ出してしまいそうになることもしばしばです。

そして、作業に焦りが出る原因に、何より締め切りがあります。
工芸展がある、とずっと前から分かっていても、日々の仕事に忙殺されて、やはり公募が始まってからの作業となることは致し方ないのですが・・・。
そしてそれはプロの作家として仕事をしている作家は、みんな一緒のようでした。
何と言っても今年は大雪・・・。

数時間であっという間に車がかまくらのようになる・・・、そんなことが連日続きました。

新潟で制作されている作家の方は、あまりの大雪に見舞われたため、何時間も除雪の作業に費やすことになってしまい、そもそも出品する作品を細かい作業が少なくていいものに、と刳りものに変更した、と後でお伺いしました。
雪に翻弄されているのは自分だけではないんだな、と思うと同時に、それが理由で制作するものの種類を変えられるほど、技術の引き出しの多さをもっているこの作家さんの実力にも圧倒されてしまいました。

まだまだ、挑戦すべきことが多いことがひしひしと伝わってきます。
人生のこの折り返しくらいには来ている歳で、そんなことが頭によぎると、結構ブルーにはなりましたが(苦笑)。

一生懸命に頑張ったと思います。
完成して、それでも気になる点はありました。
そして、そんなことが無くならないからこそ、人は制作を続けて行けるのではと思います。
100%納得できる、完璧なものを作ってしまったら、そこで満足して先にはもう行きたくなくなりますから。

工房から作品が東京に旅立ち、しばしホッとする時間が訪れました。
もっとこうしたらよかった、あそこはあんなふうだったらどうだったのか?
そして、何よりの安堵感。
色々な想いが交差する中で、それでもやり切った満足感を感じながら、次の仕事に移ります。

発表の日がやってきました。
前の晩からそわそわしていました。
いくつになっても、テストの結果を待つように、受験生が合格したかどうかを待つように、その緊張感に変わりはありません。

入選できれば大満足と思っていました。
自分の中で課題が多かったからです。
でも、思いがけない「朝日新聞社賞」の入賞の知らせでした。
思いがけなさ過ぎて、本当に自分なのかと三回くらい宛名を確認したほどでした。

一人では取れなかった賞です。
いろいろな方が、たくさんのアドバイスを、ご指導を下さいました。
「叩けば門は開かれる」
そんな気持ちで一杯でした。

日々日々制作に追われ、することの多さを嘆き、それでもコツコツと木と向き合う毎日ですが、こうしてご褒美のように「賞」という形で評価されたことは、何より嬉しく、それと同時にこの後も恥ずかしい作品を作っていはいけないな、という戒めにも思っています。

まだまだ道半ば。
挑戦は続くと覚悟しています。

コロナ禍でなければ、北海道でも展覧会が開かれたかもしれなかったことは非常に残念ですが、今後もたくさんの方にご覧頂けるような機会を作りたいと思います。

今年は工房を立ち上げ二十年の節目の年でもあります。
コロナに負けず、展示会やそのほかの機会でも、こうした作品をご覧頂けるよう願っております。

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

お問い合わせ→こちら