先日、木材屋さんに象嵌の材料を探しに行ってきました。
材料となる木材には、いろいろな種類があるのですが、この会社では単板(たんぱん)と呼ばれる、いわゆる突板(つきいた)を多く製造している所です。
今回の目的は、来月から製作予定の象嵌の入った少し大きな家具のためにまとまった量の材料を確保するためと、それ以外にも、世界中から集めた珍しい突板が多い会社なので、その珍しい材の中から良いものがあれば仕入れたいと思って伺ったのでした。
材料屋さん巡りが好きな私には、仕事抜きでゆっくりと一日見ていたいと思うような楽しいところです。
担当者と簡単な打ち合わせをしていると、こちらの「話より早く見たい!」という考えが伝わったらしく、「好きですねー」と苦笑されながら材料が積まれている工場奥へと通してもらいました。
所狭しと色々な突き板が置いてあり、圧巻の光景です。顔が緩んでいくのが自分でもわかりました。そもそも突板とは丸太の皮をむいて、それを薄さにすると0.2mmから0.6mmの厚みにスライスした板材の一つです。
この突板をベニヤの表面に貼ることにより、天然化粧合板と呼ばれる材となり、家具や建物の内装材として使われています。
突板には、希少性の高い美しい木目を持つ木材が用いられることから、材となる丸太は特に一級品が選ばれているため、これを銘木単板(めいぼくたんぱん)とも呼ぶことがあります。
同じ材料でも、特に木目や色が良いため、象嵌家具を作るにはとても適した材料なのです。
丸太をスライスすると先ほど書きましたが、簡単に言うと、丸太から長さなどを一定にする製材という工程の後、割れを防ぐために加熱してから、巨大なカンナのようなスライサーに掛けて削ってゆきます。巨大なかつお節を削る様子を想像してもらえるとわかりやすいかもしれません。
この方法だと、「柾目」と呼ばれる木目のものができるのです。
また、もう一つ、ロータリーと呼ばれる機械で、丸太の皮を剥いた状態のまま、料理の桂剥き(おでんにする大根の皮を剥くときの要領)のように剥いてゆく方法があります。「ベニヤレース」とも呼ばれているこの方法では、長ーい突板ができるわけですが、実際の作業風景はかなり迫力があるもので、機会があれば学生に見せてみたいものだな、と思います。
ちなみにこちらの方法では「板目」と呼ばれる木目のものができます。
私が、象嵌に使っている突板は0.5ミリのものが多いのですが、写真のようにまるで紙のように薄い0.2mmのものもドンと積まれていました。この技術、すごいですよね。
さて、いよいよ本題の象嵌の家具に使う材料の選別です。
何十個もある束の中から、担当者のかたが丁寧にこちらの希望する材を選り分けてくれます。
薄さは0.5mmでも長さは4mほどありますので、これを24,5枚の束にすると結構な重量になります。
選り分けてもらった材を、さらに自分の目で見て厳選します。材料探しは、象嵌にしても家具作りにしても、最も大切な作業の一つだと思います。この作業を人任せにすると、なかなか自分の思うような材料を手に入れることはできないので、できる限りは自分で出向いてチェックします。
おかげさまで、とてもいい材料を手に入れることができました。
工場の奥には突板の見本が、壁一面に掛かっています。それぞれ産地によって分かれていて見やすく、面白いので、工場を見学する人はみんな写真を撮るそうです。確かにこんなにびっちり、大きな見本が一堂に見れることは少ないので、私もパチリ、パチリ。
私が手掛けている象嵌は、木の自然な色と木目だけを使うため、出来る限りいろいろな色や、面白い木目のものがある方が、表現の幅が広がるので、いつも珍しい材や、木目の美しい材料は手に入れるように心がけて来ました。特に日本の木はどちらかと言うと薄い茶色やベージュ系の色がほとんどなので、アフリカや南アメリカなどの非常にカラフルな種類の材料は喉から手が出るほど欲しい材料なのです。
ところが、ここ数年、特にアフリカ材は極端に数が減ってきており、在庫があっても色が薄かったり質が悪かったりで、良い材に巡り合うことがめっきり少なくなってきました。
今回担当者の方にゆっくり話を聞いてみると、これは乱伐により資源が急速に減少し、アフリカのすべての国で木材の輸出量を規制しているためなのだそうです。材料によっては出荷をすでに取り止めているものもあり、こうなるとこの先新たに輸入されることはほぼないのだそうです。
これは私にとってはものすごく痛手です。と言うのも今までは普通に手に入っていたものが急に入らなくなると、象嵌で描く絵のイメージが全く違うものになってしまうからです。
少し材料の入手に焦らなくてはならないかな、と思います。
さて、話を戻し、工場での話の続きです。
大体買うものを決めた後、いよいよ本日のビッグイベント、「お宝の山をお願いします!」の一声を掛けさせて頂きました。
そう、工場の人たちからも"お宝”と呼ばれているのは、前担当者が長い時間をかけて集めた希少な材ばかりを集めた一角のコーナーのことなのです。
前回も見せてもらったこのコーナー、何種類か欲しいと思っていたものがあり、材料が山積みになっているその中から、担当者の方と「これは何だ?」「これか?」「あった、あった!」とガサガサ探してまさに掘り当てるんです。
この楽しいこと、楽しいこと。ワクワクとドキドキの一瞬なのです。
今回はパープルハートという紫色の木と、イぺという抹茶色のような木、そして木目がまるで波のような模様のブビンガー杢をゲットしました!
それ以外のものもあれこれとついつい欲しくなって工房に連れて帰ることに・・・。
すぐに使う予定はないのですが、見ているうちに「こんなのに使ってみたいな」とか「こうしたらおもしろいかな?」と創作意欲が湧いてくるので、自分でも笑ってしまいます。
そろそろ夏に向けて新作の象嵌も考え始めています。また構想がまとまったらお知らせするとして、今はまず注文を頂いている象嵌家具の製作に集中です!!
投稿者プロフィール
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1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。
お問い合わせ→こちら
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