大阪市の「クッキー君16歳」。木で作った肖像画です。

昨年の暮れに、私たちは犬の木象嵌を作る「愛犬象嵌」キャンペーンを実施しました。
facebookの記事でこのキャンペーンを知った大阪にお住いのK様は、「愛犬のクッキーもこんな風に残したいなー」という思いでその記事をごらんになっていたそうです。

K様は、お子様も独立されて、ご主人と16歳になるダックスフントの愛犬クッキー君、そして昨年家族の仲間入りをした1歳のチワワ君の2人と二匹のご家族で暮らしていらっしゃいます。

今回のご注文を決めたのは、「自分がクッキーをどれほど大切に想っているか」を、一番理解してくれていたご主人の勧めがあったからだとおっしゃいます。

「決して安くはない金額でした。いいな、という思いはありましたがやはり迷いました。
でも、主人が背中を押してくれて、思い切ってご連絡さしあげたんです。」

後でそう教えていただいて、私たちもご縁があったことをありがたく思いました。

K様のクッキー君に対する深い愛情が、頂いたメールからも溢れていました。

私は犬が大好きです。

これまでにも何度か犬の象嵌を手掛け、ブログにも綴ってきました。

「大切な家族の一員として」「大事なパートナーとして」傍にいてくれる犬たちを、自分の木象嵌で表現してあげたい。

そんな想いから始めた「愛犬象嵌」というキャンペーンだったのです。

正直に書いてしまうと、花や木などを描くのと違い、「生き物」を象嵌することは想像以上に難しい作業です。

特に飼っている人にとって大切な存在であればあるほど、その「想い」までもを描かなくては、作品として成り立たないからです。

決して甘い気持ちでこのようなキャンペーンを実施したわけではありませんでしたが、いざ始めてみると今までに経験のない「高い山」と「深い谷」のある作業工程の連続が始まりました。

どんな方ともそうですが、K様ともまず、お電話、メール、LINEなどを使っての打ち合わせが始まりました。

写真をお預かりして、そこからデザインを起こしていきます。

クッキー君のチャームポイントは額にある、うっすらとしたハート型の毛並みです。

これを残しながら、ナチュラルブラウンのグラデーションをどう表現していくか、難題との取り組み開始でもありました。

木には本当に様々な色合い、木目があります。

毎日手にしている私も「ほぉー」と唸るような微妙な色彩の違いが出てきたりします。

けれど木の色には、やはりどうしても限界があります。

持っている材料を首っ引きで睨み、使えるものをピックアップしてみたものの、どうしても欲しい色がないため材料探しにも出かけました。

当別から100kmほど離れている業者さんの倉庫で、どれくらい眠っていたのか、「何の木かわからない」木を引っ張り出してもらい、また、見つからないものは本州の業者さんからも取り寄せしてもらえるようお願いして、なんとかイメージに近いものが工房に用意できました。

下絵を作ります。

頂いた写真をもとに、ラフスケッチ、細かくデザイン、と鉛筆を動かし、できた原画をトレースします。

そこに細かく使う木を書いていき、どこのどの部分をどの材で嵌めるのか決めていきます。

犬の場合、毛の色、毛並み、そして光が当たっている部分をどうしていくか、細かく決めていきます。

細かすぎるとサイボーグのようになり、といって大雑把すぎると作品のクォリティーが下がります。

細心の注意をはらって、毛のギザギザまでも少しずつ少しずつ木をデザインカッターで切っていきます。

もういい加減慣れているはずの指にも、また新しいマメができるほどにこのギザギザを切るのには苦労してしまいました。

と言ってもまずはテストですが・・・。

色の見え方、イメージ、図柄の確認をしていきます。

いくつか修正点が出てきたので、それを意識して本番に移行です。

精度を上げたので、時間が予定より大幅にかかってしまいましたが、何とかいい感じに仕上がりました。

 

木象嵌は何より時間との勝負です。

一日に何時間も座って作業していますが、手も腰も、そして目も疲れ切って一日が終わる感じでしょうか。

でも、隙間があいたり凹凸が出たりといった精度が下がることがあったり、またデザイン画を簡略化したりすると言うことなく、自分の納得できる「作品」としてご注文に応えたいと言う思いで長時間の作業にも向き合っているつもりです。

「いいものができる」ことがどれほど自分の支えになっているのか、感ぜずにはいられないのです。

色の捉え方に違いがあり、今回は何度かやり直しをさせてもらいながら、最終的に作品として仕上げることが出来ました。

時折クッキー君のスナップを送って頂いたのですが、いろんな角度から撮った写真があると毛の色のイメージができやすいことも今回わかって、大きな収穫でした。

決して気軽に買って頂ける値段のものではありません。

思っていたものと違うものが届けられたとしたら、どれほど落胆されるのか。

それは、プロとして決して許されることではないと思っています。

絵がそこそこ似ていたとして、触る絵の表面がザラザラしている、よく見るとあちこちに隙間が空いている、なんて言うことも決してあってはならないことだと思い、最後の仕上げにも気を遣います。

さて、お手元にクッキー君の木象嵌が届いて、その包みを取った瞬間、K様の感想は・・・、

「わおー!!クッキーだ!!」 と、感動しました!というご連絡を頂戴しました。

本当にうれしい気持ちでいっぱいになった瞬間です。

実はお届けの前に納品日の確認をしていた時、クッキー君の体調が一時的に悪いことをお聞きしてとても心配していたのです。

一日でも早く届いて欲しい、そんな気持ちで送り出した作品でした。

でも、木象嵌が届いたころにはすっかり元気を取り戻し、一緒にこんな写真を撮って送ってくださいました。

毎日写真を見ているうち私の中にもすっかりクッキー君の姿が焼き付いてしまったようで、会ったことがないとはどうしても思えないほどです。(笑)

「今は自宅のリビングで飾っていますよ。大切な宝物です!!」

K様は最近もこんなお手紙を下さいました。

3年前にはクッキー君のほかにまだ2匹いたワンちゃん達。13歳を迎えて、他の2匹は相次いで亡くなったことも教えてくださいました。

急に静かになってしまった家の中で寂しそうにしているクッキー君を想い、新しくチワワを迎え入れたそうですが、じゃれるチワワに手を焼くクッキー君の姿がまた可愛い様子です。

送って頂く可愛い写真は、見ているだけで心が温まります。

本当にありがたくK様とのご縁を感謝の気持ちで感じる毎日です。

キャンペーンは終わりましたが、ありがたいことに犬の木象嵌は大人気で、まだまだ製作を控えているワンちゃんもいます。

「犬が好き」な者として、精一杯製作していきたいと思っています。

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投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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