「新居に飾る」象嵌たちが、少し前の季節、ここ当別町から旅立って行きました。
今日はこの四つの象嵌たちのお話しです。

まずはこちらの美容室KIITOSさんで開催した展示会の写真から。

美容室の壁面がギャラリーという、美術好きのオーナーが始めた展示スペースに、この時は美容室に来られるのは女性のお客様が多いという事もあり、「花」をテーマにした作品展をさせて頂きました。

しばらくしてから、この時のブログを読んでくださった方から「この壁面の象嵌のことを詳しく教えて欲しい。」とご連絡を頂きました。
この時のブログはこちら→https://d-s-shimada.com/archives/1895

お問い合わせ下さったのは、落ち着いた感じの男性でした。
それがK様でした。
設計中のK様のご新居に飾りたいとのご希望で、どこに飾られるのかがある程度決まってから、具体的な打ち合わせがメールを使って始まりました。

いくつかの象嵌がピックアップされ、最終的に新しいデザインのもの、すでに制作していた象嵌の中からサイズ違いのものをそれぞれ制作することになりました。

上の写真の中央部、横に伸びた「蓮」の象嵌を特に気に入って頂き、この2枚を大きな1枚に仕立てることになりました。

実はこの横長の「蓮-horizontal-」は自分でもアレンジをいくつか考えていました。
でも実際、頭にはあるのに作る時間がなかなか取れなくて、そのままになっている作品のひとつでした。

今回ご注文いただけたことで、アレンジを作れる!と思うと、頭の中にくるくると「画」が思い浮かんできます。
なんだか屏風にしてもいい感じかも・・・なんて思いながら、葉、花、つぼみのバランスを見て入れ替えたり書き足したり・・・。

もやもやと考えていたものをこうしてアウトプットしてどんどん書いていくと、頭で考えていたのとは違うことがたくさん出てきます。
これは毎回のことですが、手を動かして、書いてみて、そして初めて分かることの数々を、ひとつひとつ納得いくまで修正しているうちに「絵」が「画(え)」になっていくような気がします。

「絵画」とは単純な意味のものではないと改めて思います。

その昔、正倉院に初めての「木象嵌」が収められた時には「木画(もくが)」と呼ばれていたそうです。

木という素材を使って「画」を描くこと。
木工でありながらそれは「木材加工」ではなく、「木材工藝」であること。
ここしばらく、そんなことが手を動かしながらふと頭をよぎるようになりました。

作るだけではなく、その先に見えるモノの在り方に、少し近づいた気がしています。

さて、制作は順調に進みました。
下絵デザインと並行して、サイズ違いのものはサイズに合うように下絵をリデザインし、K様に確認していただいてから象嵌作業をはじめます。

春と夏の花々。

「朝顔」と「サツキ」は出窓の左右の壁にそれぞれ向かい合って飾られるとの事でした。

「カラー」と「蓮」はそれぞれリビングや居室へ・・・。

新しいお住まいに、新しい私の象嵌たちをお迎えいただく。
それはやはりとても嬉しいことです。

さて、「蓮」のデザインも絞った二案から「これ!」というものをお決め頂き、象嵌作業が始まりました。
材料も、水の動きが感じられるように事前に組み合わせも考えます。
これは楽しい作業であると同時に、結構苦労するところです。
こつこつと象嵌作業中・・。
できました。
塗装前です。

朝顔の紫色は「パープルハート」という木ですが、紫色の鮮やかさが塗装前でも引き立っています。
自分でも嬉しい瞬間です。

塗装して、・・・、乾かして・・・。

フレームを作って、作業は終了です。
送る前に写真を撮らせて頂き、しっかり梱包して、そして旅立ちを見送りました。

奈良という古(いにしえ)の街で、この象嵌たちがずっと愛してもらえるように、心から願うばかりです。

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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