「生涯の相棒」になるとっておきの家具作りを目指して・・・
もう何年もお仕事でお世話になっているH様に、自分がこれからの人生で共に歩めるような「デスク」、そして、それに合う椅子を作って欲しいというお話を頂いたのは、昨年のことでした。
長らくお待たせしましたが、雪の残る初春に「デスク」を、そして先日「椅子」もお納めできました。
パソコン仕事をするとき。
本を読むとき。
何もせず、ふと佇むとき。
そんな日々の暮らしの中で、H様に寄り添いながら、使われていく木の「机」。
これから引っ越しをしたり、自分の住まいを作ったり、たくさんの「これから」にもフレキシブルに対応できるように。
そしてこれからの人生を、共に歳月を重ねていく、「人生の相棒」となるような、世界に一つだけのH様のための「机」を作りたい。
ご注文を頂いた時に、私が想ったことでした。
人生の要所要所で、使い勝手が変わる家具
すぐにでも始めたかった「机」作りですが、象嵌の注文や展示会用の象嵌作りに日々時間をとられてしまい、思いがけなくお待たせすることになってしまったのは、自分でも想定外でした。
お時間を頂戴したことを申し訳なく思っています。
ただ、「こんな感じはどうかな?」「こうしたらいいかな?」というアイデアをいつも頭の片隅で考えながら温める時間があったことや、時間に追われることなく、じっくりと取り組める期間を設けて制作したい、と思っていたので、結果的にはとても納得のいく出来に仕上がっています。
材料はどちらも北米産のブラックウォルナットを使っています。
この木の特徴でもある濃いダークブラウン色は、部屋の雰囲気を落ち着かせたものにし、空間が穏やかな印象になります。
ブラックウォルナットは、家具材として適度に硬く、耐久性もよいため永く使える材として以前から人気でした。
しかし、ここ数年は経済振興著しい中国やロシアでも特に人気になり、色が濃く良い材料は取り合いになっているような状況で、本当に入手困難になってきている材の一つです。
「デスク」は、H様のご希望でもあり、引き出しは右側にも左側にもなるように作っています。
引き出しの位置は変わりませんが、くるりと回転させることができるようになっているので、机を両面から使えるようになっているのです。
こうすることで、例えば使う場所が変わっても、引き出し位置を右側にも左側にも変えられることになります。
何度か図面を引き直して、最適な位置にくるように考えてみました。
引き出しも、金物のレールを使うことで耐久性や修理がしやすいようにし、また、引き出しの本体は桐材を使うことにしました。
共材だとどうしても重量が増してしまいます。
桐は軽くて、そしてとても丈夫です。
日本では昔から「桐箪笥(たんす)」と言われるように家具材としては非常に優秀な材でもあります。
天板に使った材は、ブックといって(ブックマッチとも呼びます。)、一本の丸太を観音開きのように切ったものです。
一冊の分厚い本を、ページの真ん中で開いて広げたようなイメージと言えばわかりやすいでしょうか?
一本の原木から挽いたブックの材料は、原木(丸太)から仕入れ、しっかり管理し、木取、はぎ合わせをすることで美しいシンメトリーの天板となり、左右対称の木目を楽しむ事が出来るとても価値の高い家具となります。
樹齢のある、しっかりとした大きさの丸太からでなければ、なかなか取れない材料です。
私自身もこんなに状態の良いブックの材は久しく見ていません。
材が工房に届いた時には作り手として心の底からわくわくしてしまいました。
さて、制作がはじまると、機械場と手作業場の行ったり来たりが始まります。
私は日本でも木工の修行をし、スウェーデンでも修行をしましたが、どちらでもしっかり教えられたのは、「見えないところにこそ美しさを」という概念でした。
表面だけをみれば、作り手の技術の良し悪しはなかなかわかりません。
それは見えない部分、完成する前にどれくらい手をかけているか、という事ですが、これがわかるのは使いこんだ時にこそ、です。
「長く生きた木こそ、永く使えるものに」
太い幹、しっかりと強く根付いた逞しい木を、家の道具としての「家具」にすることは、かけがえのない自然を家の中に迎えることでもあります。
そして、木は生きた年数だけ家具になっても使えると言われてきました。
長く生きた木だからこそ、大切に使って欲しいという想い。
これは日本でも北欧でも培われてきた「木」の恩恵に対する感謝の気持ちだと思います。
永く使えるものを作る事、それがマイスターの称号をもらっている私の使命でもあるといつも思っています。
手をかけ、時間をかけて作ったものは、時と共に味わいが出てきます。
作った時が0であれば、それからそれぞれの家の中で使ってもらうことで、色の変化や小さなキズなども「味わい」に変化して、+10にも+20にもなっていくと思います。
私がスウェーデンで学んでいたときに、80代の女性が子供用の椅子を学校に持ち込み、「私のお祖父さんが作ってくれた椅子ですが、今度曾孫に座らせたいので修理してもらえませんか?」と尋ねてきたことがありました。
その女性のお祖父さんが作ったものという事は、その女性のお父さん、女性自身、息子さん、お孫さん、そして曾孫さん、と5世代にも渡って使われ続けてきたということになります。
私は本当にびっくりしました。
そして、自分の作るものもこうして世代を超えて使ってもらえるものにしなくては、と強く強く思ったことを今でも克明に思い出します。
家具をお届けしたときの、お客様の笑顔にすべての答えがある
H様のデスクを納めた際、本当に喜んでいただけたご様子を拝見して、私も心の底から嬉しくなっていく自分に気が付きました。
この瞬間のために、私はいつもモノづくりをしているのだと改めて思います。
使っている材料のこと、天板のブックという材の意味のこと、そしてデスクを両面から使うときの使用方法など、熱心に私の説明を聞いてくださるH様のもと、「この木の机はずっと大切にしてもらえる幸せな奴だな」と、ふと思いました。
作り手にとって、これは本当に有難いことです。
続けて、机にぴったりと合う椅子作りのために、お持ちした他の椅子に実際に座って頂きました。
ルームシューズをはくとき、ラグマットを敷いた時、どの高さで座って作業をすると一番快適になるのか、本を読むときにはどうか、などということをご一緒に相談させて頂きます。
椅子をデスクの下に収納できるようにというご希望も頂き、工房に帰ってから最終案をまとめて実際の椅子の制作を始めさせて頂きました。
バンドの色は「紺色」に。
これもH様のご希望です。
ダークブラウンとよく合って、シックな印象の椅子になりました。
椅子は、身体を預けて座るものです。
頑丈に、でも体に馴染み、そして部屋にあっては美しくなるように。
完成した椅子は、H様ご自身が工房においで頂き、そしてお持ちになりました。
ここ、木工房という椅子を作った場所から、旅立つ椅子を見送るとき、H様に本当にお喜び頂けて、私もホッとし、そして嬉しくて心がぽかぽかしてきました。
このデスクと椅子は、これからの長い時間をH様の側で過ごすことになります。
いつまでも永く寄り添っていく「相棒」となりますよう、私も心から願っています。
もちろん、私が生きている限りいつでも「メンテナンス可能」です(笑)!
安心して末永くお使い頂ければと思っています。
投稿者プロフィール
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1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。
お問い合わせ→こちら
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