キキとシェリーが寄り添う一枚
東京にお住いのH様が送ってくださった一枚の写真、愛犬キキちゃんとH様、そして今回制作させて頂いた木象嵌「キキとシェリー」です。
H様から象嵌のお問合せを頂いたのは、2020年3月でした。
ちょうどコロナウィルスの感染拡大が全国的に大きな問題になり、日本全体が大きく揺れていたころです。
私は工房に籠り、少し大きな作品作りに挑んでいたところでした。
まだ雪が降る北海道の3月。外は雪のせいで薄暗く、一日中工房に一人でいて黙々と作業をしていた私に届いたのは、キキちゃんの優しげな写真でした。

犬が好き!
何度かブログでも書きましたが、私は犬がとても好きです。
工房の周りを散歩している犬たちは、ほとんど顔見知りです。私がいることを知っているのか、何匹かは自分が来たことを工房の中にいる私に吠えて教えてくれることもしばしばでした。
でも、このコロナウィルスの感染のなか、散歩をしていても立ち寄ってくれることは飼い主さんにとっても、私にとっても、なかなかお互いに難しいことです。
しばらく犬と戯れることもなく過ごしていた、そんな時に届いたのが、このキキちゃんでした。
H様にはもう一匹愛犬がいらっしゃいました。
キキちゃんが家に来る前から一緒に過ごしていたシェリーちゃんです。
シェリーちゃんは、少し前に天国に旅立っていました。
キキちゃんの後ろにシェリーちゃんの写真を発見し、H様の二匹に対する愛情の深さを感じました。

下書き作りから、制作開始
二匹のお写真をお預かりし、工房で何度も拝見しました。
シェリーちゃんはデジタル画像ではなく、フィルムから現像したものをお借りしました。
写真は新しいものでも、古いものでも、「私」というフィルターを通して一つの「絵」にしていきます。
二匹がどんな風か、勝手な想像をしていましたが、二匹ともいかにもお利口そうで、優しい雰囲気がとても伝わってきます。
そばにいたら、きっとそっと撫でてみたいと思わずにいられない、大きな目が印象的です。
今はもう一緒に写真を撮ることは叶わないかもしれない二匹ですが、象嵌の中でなら、並んでもう一度H様に微笑む姿を描けます。
下絵を描くのも楽しい時間です。
「名前を入れて欲しい」というH様のご要望をお聞きしていたのに、実は最初の下絵はのびのびと描きすぎて、名前が入るスペースがないことに気が付きました。
あわてて、もう一度描き直しです。
H様からのOKも頂き、いよいよ本番の制作に入ります。
顔の部分でテストピースを作ります。
一度でバシッと納得がいくときもありますが、今回は少し木目や木の色が違うと印象がかなり違うため、自分のなかでも試行錯誤してみました。
シェリーちゃんは3種類、

キキちゃんは2種類、

配色を変えたり、目を少し変えたり。
H様にもご覧頂き、テストは無事終了です。
いよいよ本番の制作に入りました。
一度テストで作っていますが、本番は細部まで細かく切り抜き作業をしていくので、テストよりも時間がかかります。
でも、写真を見ながら、その犬たちのことを想像して手を動かしていると、心が温まる思いがしました。
特に今回は世の中も少し暗いムードだったり、休業で展示スペースの照明を落としていたりして、何となーく息苦しい雰囲気のある毎日でしたから、こうして柔らかい表情の犬たちの写真を見ているのは、私にとってもありがたい時間でした。
出来上がった象嵌と、H様からのお手紙

すべての制作が終わり、いよいよここ北海道当別から東京へと二匹の象嵌が旅路につきました。
H様のお手元に無事に着いたとのご連絡を頂戴し、ようやくホッとしました。
そして、そのご連絡のメールに本当に嬉しい思いでいっぱいになりました。
「島田様
こんばんわ。
キキとシェリーが無事到着しました。
明日ゆっくりと開けてみようと思いましたが、我慢できず早速開けてみました。
二人で飛び上がるほどにうれしかったです。
本当にありがとうございました。
まだ壁掛けの金具を用意していないので、壁に掛けたらまた写真をお送りします。
全国的にコロナで気分が落ち込んでいましたので、本当にうれしいです。
ありがとうございました。
島田様もお体気を付けて、今後もお仕事頑張ってください。」
読んでいて、こちらこそ暗いムードがパッと花が咲いたような気持になりました。
こうして、このような仕事をさせてもらっていることに本当にありがたいと思いました。
さらに数日後、もう一度H様がご連絡を下さいました。
ご自宅に飾って頂いた象嵌と、H様とキキちゃんの写真が一緒でした。
「島田様
こんにちは。
この度は色々とありがとうございました。
リビングに飾りました写真を送ります。
この場所は、リフォーム中に考えていたところです。
とても感激しています。
木象嵌はあまり知られていなく、見た人たちからは絶賛されています。
東京はコロナと猛暑で大変で、ワンコの散歩も早朝や夜にしております。
島田様もお体を大切にしてください。
また機会がありましたらよろしくお願いいたします。」
H様に抱かれているキキちゃんが、何となく誇らしげな顔をしているように見えて、私も本当に嬉しくなりました。
いつまでもH様の近くで、この象嵌が変わらず微笑み続けていてくれることを心よりお祈りしています。
心からの感謝の気持ちを胸に、少し秋めいてきた北海道の工房で今日も頑張ろうと思います。

投稿者プロフィール

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1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。
お問い合わせ→こちら
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