工房は20歳になり、私は50歳も目前です

2001年8月1日、私はスウェーデンから帰国してすぐに木工房「デザインスタジオシマダ」を立ち上げました。
まるで昨日のことのような、ずーっと遠い事のような、この20年という歳月はまるで走馬灯のようにめぐる時間の日々でした。

20年前には、いまこのような心境になるとはきっと想像もしていなかったと思います。
走りに走ったこの20年を振り返ると、いつもいつも、たくさんの方に支えられ、励まされて今日まで続けて来れたのだと、感謝の気持ちしかありません。
本当にありがたく、幸せなことと思っています。

20周年を記念した個展を札幌三越で開催することができ、一つの区切りをつけることもできました。
コロナという前代未聞の天災の中ではありましたが、作品に対する想いや素材としての「木」に対する想いを最大限に表現できた作品をご覧頂ける機会を頂いたことは、幸せであり光栄なことと思っています。

そしてこの20年の歩み、私がどんなモノづくりをしてきたか、少し過去を振り返り、ご紹介してみたいという気持ちになりました。

さすがに20年間には様々なことがありましたので、ちょっと長くなりそうです。
3回、4回に分けてご紹介したいと思います。
どうぞお付き合いください。

今回は第一部の前のプロローグとして、工房を立ち上げる前の子供時代からスウェーデンに留学する以前までのお話を足早ではありますがしてみたいと思います。

残念なことは、まったくデジタルではなかった時代の話になるため、画像がほとんどない、ということです。
話ばかりになることをお許しください。

私は1971年に北海道苫小牧市で生まれました。
自宅は自然に囲まれた苫小牧市の中心からやや外れたところにありました。
小学生の時には学校の行き帰りに野生のキジと遭遇したり、自転車に乗って友達と毎日のように出かけていた手つかずの森では、石器時代の矢じりを掘ったり、クワガタを追いかけるのに夢中になりました。

一度森の中に深く入り込み過ぎて、危うく遭難しかけるという事件もありました。
営林署の方が偶然にも調査に来ていて救助され、家に着くと親たちが集まって警察にいくかどうかと相談中だったというのも、懐かしい思い出です。
(その後嫌と言うほど怒られましたが・・・苦笑)

そんな自然が身近だった幼少期から小学生時代の経験は、その後の私の人生を大いに左右するものだったのかなと、今はそんな風にも思います。
風に揺れる木の葉の音や、真夏のセミの大合唱、小川のせせらぎの澄んだ水や流れる水音など、目に映る風景と、耳に残る自然の音はどちらもはっきりと脳裏に浮かびあがります。

さて、そんな小学生活のなか、授業で木版画を作ることになりました。
彫刻刀で自分の顔を彫るのですが、私はなにより、黒くインクをつけた版木が見せる「木目」に魅せられてしまいました。
「何だこれ?」
その強い衝撃は今でもはっきりと覚えています。
そしてそれが、素材としての「木」を意識したきっかけとなりました。

それ以来何かと「木」に関係することをしたがるようになり、一時は白老町でクマの木彫りを作っている作家さんのご好意で、土、日になると木彫りの体験をさせてもらったりするようになりました。

その後中学校に入ると、水泳に夢中になり、また、小学生から続けていた書道にも力が入り、そのころのみんながそうであるように音楽に興味を持ってラジオばかり聞くことがあったり、お小遣いをためてロックバンドのレコードをこっそりと買ったり、と色々な事にアンテナが動いていた気がします。

ただ、「木」のことは常に頭の片隅にありました。
このころからすでに木工家を目指したいと、うっすらと考えていました。
まだまだ夢の中の話ではありましたが、自分で作った家具を置いた部屋を想像したり、誰かに頼まれてまな板をひょうひょいっとカンナをかけてあげる姿など、想像の中の自分は道具を使いこなしたいっぱしの職人になっていました。

そんなことも手伝って、北海道立おといねっぷ高校に入学します。
道内では唯一の工芸科がある高校でした。
親元を離れて寮で過ごした3年間は、思い出満載の3年間です。
砂沢ビッキさんが制作の地にしていたこともあり、林業の町でもあったため、とにかく「木」はさらに身近なものとしてすぐ隣にある素材でした。

さらに工芸を極めたいという想いで、高校から富山県高岡市にあった国立高岡短期大学(現富山大学)に進学しました。
高校時代よりさらにものづくりをしたい学生が全国から集まってきて、とても個性豊かな学校でした。
科は違っても、「ものを作ることが好き」という人が多いので、金工、鋳物、木工などいろいろな科の学生が入り混じって、楽しくワイワイ、そして作るとなったらみんな猛烈に打ち込む、と言った2年間でした。

「俺のじいちゃん、人間国宝」という友達も二人いました。
その時はまったくそのすごさがわからなかった私は「へぇー」としか思っておらず、それよりも、とにかくみんなでバカなことをしている時間が楽しかったため、その後30年近くを経てその友人たちも再び国宝を目指してがんばっていることを知った時には、感動ですらありました。
今では、なぜおじいちゃんに会わせておいてもらわなかったのか、と後悔しきりです。国宝云々というより、そのモノづくりの精神、培った技術について、そういったことを直接聞く機会だったのかもしれないのに・・・。

さて、短大卒業後は就職したものの、時はバブルがはじけて間もない頃のこと、社会全体が下向き加減なこともあり、会社ではなかなか思っていたような仕事をさせてもらうことが出来ず、一旦会社を辞めて別な方法で木工の修行をしながら技術を学ぶことにしました。
そんな時、ある建設現場に興味を持ち、他に何もやる事も無かったため自分で握ったおにぎりを持って近くの空き地からその現場の作業の様子を日がな一日眺めていることがありました。(今思えば暇だなー、と自分でも苦笑ですが、その建築の現場には古材や立派な大木が建設資材として持ち込まれていて、どんなものができるのか、本当に興味だけで見ていたのです。)
そしてここで「辻が花一竹先生」との出会いを得たのでした。先の建設現場は一竹先生ご自身の着物の美術館になる現場だったのでした。

「君は何か作れるの?」とお握りをほおばる私に話しかけた先生を、「このおじいちゃん誰だろう?」と思いつつ、木工を勉強していることを伝えると、「じゃあついて来て。」と建築現場に連れていかれました。
そしてそれから数週間、私は先生の美術館に納める家具などを古材を使って作らせてもらいました。
さすがに偉い先生だったことを知り、その偶然に驚きましたが、完成した美術館に高円宮様、黒柳徹子さん、ピエール・カルダンさんらを招いた際に、なぜか私まで同席させられ、人の縁の不思議さやおもしろさを時間と共に今でもびっくりしながら思い出します。
そして一竹先生のモノづくりの想いを知ったことで、さらに木工を深く追求したい思いが強くなりました。
(一竹先生との思い出は、長くなるためいつか別の機会に書いてみたいと思います)

その後岐阜の工房などで修行させてもらい、ここ北海道石狩の当別町にあるスウェーデン交流センター木工房のアシスタントとして再び北海道に帰って来たのは24歳の時でした。

そして、ここからが私とスウェーデンを結ぶ人生の第2幕へとつづくのですが、この話の続きはまた次回に致します。

お楽しみに。

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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