「ソーイングボックスを作って欲しいのですが、注文することは可能ですか?」
工房を訪ねて来られた女性からのお願いは、「永く使えて、丈夫で、使いやすい」ソーイングボックスを作る事でした。

実はこの女性、私が高校生の頃、札幌市内にあった美術予備校に通っていた同級生の方でした。
私は当時夏休み、冬休みといった長い休みの間しか通っていなかったのですが、その時にクラスで同じ年頃の友達で昼食を共にしたりワイワイ話したり、その数人の中の一人でした。

長い長い時間を経て、ん十年ぶりの再会でした。
すぐには思い出せないほど時間は流れていましたが、少しずつ記憶を辿り、そのころ描いていた(描かされていた)絵を思い出したりして、たわいない話に大笑いしていた友人たちを思い出し、懐かしい記憶に再開した次第でした。

この友人は高校を卒業し、都内にある大学に進学して服飾を学び、その後ご結婚されて今は娘さんもこの春から大学生とのことでした。

大学を卒業するときに学校から卒業祝いとして贈られたのが初代ソーイングボックスだったそうで、長らく相棒としていつも傍らに置いていたそうです。

しかし経年と共に傷んできてしまい、「せっかくなら次に使うものは手作りでいいものが欲しい。」と考えたそうです。

そしてスウェーデン家具マイスターを取ったか何かの私の記事を思い出し、札幌の実家に帰省した折、はるばる当別の工房まで訪ねてきてくれたのです。

その後メールや電話で初代ソーイングボックスの話を聞いたり、サイズの希望などを聞いておおまかなデザインも決まり、「丈夫で長持ち」と言う観点から道産のナラ材をすすめて承諾をもらいました。

一般的に販売されているソーイングボックスは合板で作られています。
でも、どうしても板の厚みが薄く、接着もボンドのみのものも多いようでした。

そこで無垢材を使って、隅もしっかりと「組み」の仕様とし、家具の小型版のクォリティを持たせようと思いました。

実際にソーイングボックスに入れて使うもの、糸やハサミなどの量とサイズを細かく検討してもらい、引き出しの深さや数も決めていきました。

材料も素性のよい良い板材を用意することができ、いざいざ制作が始まってみたところ、すぐに問題が発生しました。

部材を切り出してみたところ、かなりの重量になるのです。
それはそうです。家具のように堅牢なつくりにするのである程度の厚みのある板です。
そして、特にナラの木は重いことでも知られているのですから・・・。

一般的なソーイングボックスは2kg前後の重さですが、それに比べると今回のソーイングボックスは金物もがっちりしたものにするため5kg弱の重さになると思われました。

そこにハサミや諸々の道具類が入ったら、家の中を片手ですいすい移動することができるだろうか?

普段ソーイングボックスを使ったことのない私にとって、それは全くわからない状況でしたが、どんなに丈夫でも「使いにくい」ものを作ることはできません。

一旦友人にその旨を相談し、改めて材料も替えてみることも提案してみました。
でも、「丈夫で長持ち」がまず第一希望であり、家の中を持って移動できるのであれば重さは気にしないということで、ナラ材でのボックスづくりは無事再開できました。

重さを考慮し、持ち手の形と厚みそして耐久性からデザインを何度かし直しました。
丁番もピアノの蓋に使っている長いものを取り寄せ、蓋を留める金具は1個ではなく2個にしました。

箱の中では糸や針刺しを好きに移動して使えるよう、可動式の仕切りを作りました。これは友人の希望で「お弁当の仕切り」のようなものをイメージして作っています。

工房を訪ねてきてくれてから結構お待たせしてしまいましたが、ようやく渾身のソーイングボックスを東京に向けて発送したときにはやはり嬉しいなと思いました。
完成したものです。

象嵌を入れてもいいかなと言う話も出ましたが、このシンプルなスタイルも私らしいスタイルかなと思います。
外からは見えないところ、隠れてしまうようなところにこそ細かい「造り」をたっぷりと入れているこの箱が、友人、そして将来友人の娘さん、お孫さん、と継いで使ってもらえるといいな、と思います。

手作りの一番の良さは、何より「愛着を持って使ってもらえる」ことだと思っています。
間に合わせとは違う、自分だけの大切なモノ。
これからも「こんな希望の、こんなモノ」というオーダーに真摯に向き合いたいと思っています。

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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