以前から何度かご紹介している木象嵌の木箱。

大きさは、幅20cm、奥行き15cm、高さ10cmほどです。

ご注文頂いたのは、富良野にあるフラノ寶亭留の林支配人でした。

ホテルのゲストが、パートナーやご家族へのサプライズプレゼントを渡す、その大切な瞬間を演出できるような箱として作られた小箱なのです。

「プロポーズボックス、活躍してるんですよ!」

先日お訪ねした林支配人にそうお聞きして私も思わずびっくりしてしまいました。

いつの間にか、この箱は「プロポーズボックス」と呼ばれるようになっていました。

富良野でプロポーズをしたという方がSNSなどに、この箱に指輪と写真、そして手紙をいれて彼女にプロポーズしたという話を投稿したことがきっかけだったとのこと。

それを見た方が「よし!」という思い(なのでしょうか?)でプロポーズをすることを前提としたご予約を入れられているようなのです。

そしてすでに数名がこの箱に「想い」と「指輪」を込めて、人生で一番のドラマに挑まれたとのこと・・・。

すごいなーー、となんだか他人事のようにこの木の箱を眺めてしまいました。

小さな箱ですが、出来上がるまでには時間と手間を惜しまず、象嵌にもひとしおのこだわりを持って作った作品です。

この箱は、まずイメージとして「指輪」「お菓子」「手紙と写真」が入るもので、さらに「何が入っているのか開けるまではわからない」というワクワクした気持ちを持たせるもの、という前提がありました。

ワクワクする、というのは、「鍵を差し込み、カチャっと音がして、初めて蓋が開く」という一連の流れで表現したいと思いました。

そして中に入れるものはその時折々で変化することから、指輪の入った箱などを採寸して、対応度の高いサイズを目指しました。

まずはモデルを作ります。

鍵を開けて、蓋を開けるとこんなイメージです。

モデルと言っても、細かいデティールまで入れていきます。
これは縁の溝の部分。

実際の作品では溝のない仕様にしましたが、こんな風に頭の中で考えるだけではなく、実際に手を動かしてある程度の「カタチ」にした方が、この先の「出来上がり度」は確実に上がります。

ですので、最初のモデル作りはとくに大切にしています。

表面となる一番大切な象嵌を始めたところです。

デザインはアールヌーボーを基調にした柔らかい花のイメージです。

この花。

一輪が大体5~7㎜程度です。真ん中の花弁の部分に至っては1mm程度あるかないか・・・。

しびれるような作業の連続です。

大分できてきました。

表面ができると今度は内側の象嵌に入ります。

この箱は、内側も、中に入るトレーも、すべて白い木を使った格子模様の象嵌を施しています。

木目の縦と横をそれぞれ交互に象嵌し、自然のチェック模様を作り出す、と言ったところでしょうか。

箱、トレー。どちらの底も象嵌仕様です。

底なんて誰も見ないのに、とよく言われるのですが、そこまでこだわるのが「私流」といったところでしょうか。

とにかく細部まで手を抜かずに仕上げていきます。

手を抜かない、と言えばこの鍵にもこだわらせて頂きました。

こちらは市販のものです。

このままでは味もそっけもなく、箱のイメージに合っていません。

そこで、鍵の上部を切り落とし、自分で木片を切り出して付け替えてみました。

コロンとして、ちょっと可愛くなったかな、と自画自賛です。(笑)

こうして鍵付きの象嵌小箱の完成です。

 

自分の作ったものがこうして大切な瞬間の演出に一役買うというのは、作っている時にはまだまだ実感としてはありません。

でも、私も一生懸命に想いを込めて作ったもの。

その自分の想いを込めたものが、今度は、人の想いを込めるものになっていく。

これは、背中がムズムズするような、嬉しくてちょっと恥ずかしくて、そして心がジーンと温まる想いのすることです。

やはり嬉しいものですね。

素敵なカップル誕生を願って止みません!

ぜひプロポーズ後のあれこれを教えて頂き、ご自分たちのオリジナルの「箱」を作らせて頂きたいなと思ってしまいます。

そして、その箱が「母から娘へ」と受け継がれていくような、そんな次の世代にも使ってもらいたいと心から願っています。

そのためにも、永く永く愛されるような、しっかりとした造りのものを作って行こうと思います。

さて、フラノ寶亭留で開催中の木象嵌の展示会も、いよいよ残すところ1か月と少しになりました。

今回もたくさんの方々にご覧頂くことができ、本当に嬉しく思っています。

プロポーズをしてくださった方々も、きっとこの展示会もお二人でご覧になってくださったのでは、と思います。

そして、何よりも嬉しく思うのは、このプロポーズボックスを始め、私の木象嵌を、普段は会場にいない私に代わってホテルのゲストの方々にしてくださっているフラノ寶亭留のスタッフの方々が、どれほど木象嵌を愛して下さっているのか、と言うことです。

毎日のように同じ木象嵌の作品を見ていたら、飽きてしまうのではないかな・・・と作っている私などは心配になってしまうのに、前回に続き2度目の木象嵌の展示会を開催させて頂き、そして、まだまだ展示をして欲しいというお声を上げて下さっているとのこと。

そしてまだ未定ではありますが、「常設」を視野にいくつかの作品を展示会終了後もフラノ寶亭留に展示することができるかもしれません。

これは言葉にならないほど、感謝と喜びに溢れることです。

「常設」は自分の工房以外では初めての試みとなります。

一つ一つの作品を作るのに、時間と手間がとてもかかる木象嵌。

でもしっかりとした仕事をすることを心掛ける、その私の想いは、作品を見る人にも伝わって行くのだなと思うと、元気がでてきますね。

「人と人の縁となるような」

「プロポーズのような人生の大切な瞬間を飾っていくような」

木象嵌作りへの新しい希望を頂いた、今回の林支配人のお話です。

10月には札幌市内で小さな展示会も開催予定です。

製作に追われていて好きな自転車もお預けの毎日ですが、希望が灯す温かい「想い」を今日も木に込めて作業に打ち込みます!

投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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