ここ北海道の7月の空の青さは、「爽やか」の一語に尽きます。

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まだ暑過ぎず、蒸し蒸ししておらず、この7月の澄んだ瑞々しい朝の空気は最高です。

この空気の持つ匂いというか、風の気持ち良さというか、自分を取り巻くもの全体が、スウェーデンの初夏のそれにそっくりに思え、気持ちよさに加えて懐かしい気持ちが胸いっぱいに広がるのが、この季節の恒例になりました。

私は1997年の8月から、スウェーデン南東にあるエーランド島の「カペラゴーデン手工芸学校」に留学しました。

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当時私は25歳。

中学生の頃から木工に興味があり、北海道音威子府高校、高岡短期大学(現富山大学)で知識としての木工を学び、そして富山、岐阜と修行を積んだ後、縁あってここ北海道の当別町にあるスウェーデン交流センターに就職したことが、私とスウェーデンを結ぶ最初の出来事になりました。

当時の交流センターでは、毎年インストラクターとしてスウェーデンの木工家を招聘し、私の仕事もこのインストラクターのアシスタントを務めるというもので、日々このインストラクターと共に家具作りに没頭していました。

そしてそのインストラクターであったアンディッシュ・オルソンさんに「君の探しているものは、スウェーデンにきっとある。」と話を聞き、私はアンディッシュさんの卒業した学校でもある「カペラゴーデン手工芸学校」に留学したいと強く思うようになったのです。

この学校のことは高岡短期大学時代にも聞いて知っていました。

それは私にとって夢のような学校でした。

「カペラゴーデン手工芸学校」(略してカペラ)

1957年、「スウェーデン家具の父」としても有名なカール・マルムステンによって開かれた学校。

マルムステン

マルムステンは、手仕事の復興と純粋芸術に対する応用芸術(一種の生活デザイン)を提唱した「アーツ&クラフツ」運動を、スウェーデンで継承、実践した人であり、「素材に導かれる」という考え方を基礎に活躍した家具デザイナーです。

スウェーデン家具の歴史を語る上で決して外せないこのマルムステンは、家具のデザインはもちろん、自らも一流の家具職人として製作にも携わり、名声を馳せました。

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写真は代表作の一つ、ストックホルム市庁舎の椅子とホール。

そして、マルムステンはその家具作りや自らの考えである「自然との共生」をコンセプトとした生き方を後世に伝える活動も活発に行い、小学校から大学まで、幅広い教育機関の開設に携わりました。

その一つであり、最も有名になったのがこの「カペラ」なのです。

カペラ玄関

 

学科は、創立当初からある木工科(現、家具・インテリア科)に加え、陶芸科、テキスタイル科、園芸科の4つのコースで構成されています。

学生は、出身も、年齢も様々ですが、働いて資金を貯めてからくる人も多く、「何となく」で来ている人がほとんどいないため、製作活動に没頭するもの同士が、刺激を与えあい、互いに切磋琢磨することで多くの優秀な職人を輩出してきました。

豊かな自然の中にあり、学生のほとんどが共同の寮生活を送ります。

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「作る」という同じ目的をもった人にとっては「至福の場所」としても世界的に有名な学校です。

ちなみに、木工科の入学試験の倍率は(その年によって変動がありますが)およそ50倍とも言われており、かなりの難関であることでも有名です。

 

さて、こんな憧れの学校に「いざ行こう!」と決めてはみたものの、当時はインターネットもない時代だったので、もちろんgoogleで調べるなんてこともできず、すべては自分の力だけで調べることになりました。

でも、この不便さはかえって良い勉強になり、この時いろいろ調べたことが、後になって自分を大いに助け、そして役に立ちました。

今でも「先生、スウェーデンに留学したいんだけど、どうすればいいですか?」などと聞いてくるけしからん学生も多いのですが、私の答えはいつも「自分で調べろ。」の一言です。

冷たく感じるかもしれませんが、本当に行きたいと思うのだったら、まず「自力」でやれるところまでやるべきです。

そして、結果的に必ずそれが自分にとってプラスになります。

財産になります。

「行きたい」気持ちの強さも、そこで大体わかります。

途中で、「面倒くさい」と思ったら、留学自体は、もおおおおっと面倒くさいものだらけですから、はっきり言って「無理」と思った方が無難です。

厳しく聞こえるかもしれませんが、安易に人に聞く前に、自分で調べることはマナーだと私は思っています。

だって、何と言っても、今の人にはインターネットがあるのですから。

さて、話が反れましたが、語学が苦手な私であったものの、どうしても日本にいてはわかりきらないことだらけで、思い切ってカペラに電話で聞いてみることにしたのです。

でも、案の定、向こうの先生が何を言っているのか、自分の話が通じているのか、それさえも分からない始末だったため、遂には、「そちらに行きます!」と言って電話を切り、航空券を買いに旅行会社に走ったのでした。

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言葉では無理でも、作ったものを見てもらえれば、自分の技術も「やる気」もわかってもらえる。

そう信じて、自分の作ったものの写真のファイルを手に、一路スウェーデンに向かいました。

人間、自分を信じられれば、大体のことはやることができるんだな、と実感したのもこの時でした。

到着したスウェーデンは、ちょうど今頃のような、風がさわやかな初夏の季節でした。

青空、そして美しい街並み。

エーランド島のカペラは、息を呑むほどの美しい学校でした。

すべてが夢のようでした。

そして、記憶がないくらい必死に自分のことを、ジェスチャーをメインにして語った甲斐があり、その後帰国した私のところに「入学審査に合格した。」という連絡が来たときには、大声で叫び出したくなるくらい嬉しかったことを思い出します。

人生で一番嬉しかった出来事の一つだと、今でもその時の胸の高鳴りを考えるとジンと来ます。

7月のこの空には、そんなことを昨日のように思い出させる力があるようです。

たくさんの思い出が詰まったスウェーデンの留学生活。

また少しずつ皆さんにご紹介していきたいと思います。

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投稿者プロフィール

Akio Shimada
Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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