今日は私が作っている象嵌の作り方について、ご説明したいと思います。
札幌にお住いのN様は、大丸札幌店でのイベントで私のブースを訪れになり、そこで初めて「木象嵌」のことをお知りになったそうです。
そしてその時にご購入されたこの象嵌を使ったポストカードから、象嵌作品を家に飾って見たいと思われるようになり、工房を訪れてくださいました。
今回製作する象嵌は、このダーラヘストのサイズとデザインを変えたものになります。
N様ご自身で馬の配色や、大きさ、ワンポイントを入れる工夫など、積極的に製作に関わって頂き、今までのものとは一味違うものになりました。
N様のご感想や、お家でのお写真は「お客様の声」でもご紹介予定ですので、後日そちらもアップいたしましたらご覧ください。
それでは下絵を作り上げたところから、実際の製作作業へと入っていきます。
ベースとなる木はサぺリという材料で、30cm角に切ったものを用意します。そして、このベースに嵌め込まれていく馬たちをそれぞれ作っていきます。
嵌め込む馬は全部で6頭で、6種類の木を用いて作ります。ベースとなる材と嵌め込む材、それぞれにカーボン用紙で下絵を写しとり、それを切り抜きます。
この写真はべースのサぺリを切り抜いてできた馬型が、嵌め込まれる側のセンを切り抜いた後に、ぴったりと嵌め込みできているところです。
何でもなさそうなように見えて、いつもいつもこのようにぴったりと切り抜けるわけではありません。こんな風に使わないピース同士もぴったりと嵌められる時は、自分でも調子が良くてノッテいる証拠です。
次々とこのように、馬の形に切り抜いては嵌める、を繰り返します。
この、模様の入った馬の作り方をちょっとご説明します。
馬の本体であるシナという白い木の材に、鞍(くら)の部分を焦げ茶色のウォルナット材を使って嵌め込んで行きます。
模様部分のピースを、デザインカッタ
細かい作業なので慎重に切ってゆきます。
材料となる木は、0.5ミリの厚みですが、さすがに硬ささがあるため力
嵌め込むウォルナット材の上にのせ、木目を合わせます。
マスキングテープで仮止めをしながら、切り抜いて行きます。
横から撮っているので、わかりにくいかもしれませんが、左側頭部の木目と、右側胴体部分の木目が合うように嵌め込んでいます。こうすると、出来上がったときの印象が自然になるため、手間はかかりますが大切なポイントです。
さ
そして先ほど切り抜いて取っておいた白いピース部分を重ね、さらに模様の部分に嵌るよう
拡大して見ても、ぴったりと嵌っているのが分かります。
あとは、この模様に注意しながら、馬本体を切り抜いてベースに嵌めます。
さて、残りの一頭は、N様のご希望で馬の胴体に小さなお花を象嵌しました。
「大人可愛くしたいんです!」と言うN様のお話から、どうしたら大人可愛いくなるのか、そもそも「大人可愛い」ってどんなものなのか、男にはなかなか難しい世界であり、正直に言うと「??」という思いでした。
タイミングよく打ち合わせには家内も同行していたので、女性達の「大人可愛い論」が進行中の間、私はN様の飼い猫さんとしばし戯れておりました・・・。
そして、花をワンポイント的に入れることに決まり、形と色を相談ののち、実際に象嵌したものがこちらです。
二つの花の、形と色の組み合わせを変えてみました。
馬の口の部分にも、轡(くつわ)の装飾を
ウォルナット材は、丸太の外側の部分は白っぽく、中心部分は黒っぽいことが多いのが特徴です。
しかしながら、残念なことにこの白っぽい部分は〝シラタ”と呼ばれていて、家具や木工の材料としては敬遠されがちです。大抵は使われることなく、廃棄処分されてしまいます。
でも私のように象嵌をする者には、このような2層に色が分かれている材は、おもしろくて仕方がありません。
せっかく大きく育った木を切って使わせてもらっているのですから、使えるところは一生懸命に使い方を工夫することも、木工に携わる者にとっては大切なことではないかな、と思っています。
さて、すべての象嵌作業が終了したところです。
上段左から、シナ材にウォルナット材の模様を入れたもの、真ん中の赤い馬はパドック材、右側は北海道のセン材、そして下段の左側はカバ材の瘤部分を使い、真ん中はケヤキ、そして右側はブラックウォールナットに花の象嵌を入れたものです。
これをプレス機を使って基板となるベニヤの板にしっかりと
圧着後、オイルを塗装して仕上げます。
メープル材でフレームを作ります。
機械加工もちょちょいのちょい。
フレームに嵌め込み、完成です。
色もいい具合に発色し、ワンポイントの花がとてもよいアクセントになりました。
出来上がりの寸法はフレームを入れて、30cm×30cmほどです。
そして納品の日。N様が本当に嬉しそうにしていらっしゃり、ホッと胸をなでおろしました。
お客様に受け取って頂くその時までが、私の象嵌製作の続きかもしれません。
ダーラヘストたちが、N様そしてご家族の皆様に愛されますように。
心の中で祈りながら、N様の家を後にしました。
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投稿者プロフィール
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1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。
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