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先日、札幌市内にお住いのH様のお宅に伺い、象嵌家具製作の3度目の打ち合わせをして来ました。

昨年12月の初めに、大丸札幌店で開催された「北欧展」で、H様の奥様と娘様が私のブースをご覧になり、展示していた家具に興味をお持ちになったようで、二人で「こんなのいいかもね。」とおっしゃりながらご覧になっていました。

大丸札幌北欧展

 

「ワインセラーがあるのですが、その上に飾り棚が欲しいとずっと思っていて。でもなかなか思うようなものがないんですよね。」と奥様。

いろいろお話を伺うと、どうやらご主人様がとてもこだわりのある方で、何度かこうしてデパートの催事などで知った家具工房や、メーカーにご主人様と見に行かれたらしいのですが、ご主人様のピンと来るものに出会えず、なかなか決まらないとのことでした。

さて、大丸での催事も終わった12月の中旬、H様より工房においでになりたい旨のご連絡を頂きました。

「ぜひぜひ。お待ちしております!」とお伝えしたものの、ご主人様がどんな方なのか、私の家具を見てどうお思いになるのか、
「こりゃ大変だ!」とドキドキしながら、お見せする家具と、いくつかの象嵌の作品も出してお待ちすることにしました。

大丸で展示していた家具はシンプルなものでしたが、H様ご家族がご興味を持たれたのは、象嵌の作品と、これまでに作ってきた象嵌家具の写真でした。

シンプルで機能的な家具は他にもたくさんありますし、きっとそういったものはこれまでも目にされてきたのだと思います。

でも、H様がイメージされていたのは、オリジナルなデザインで、存在感がある「他にはないもの」のようでした。

家具の話よりも、象嵌の話に花が咲いた工房でのひととき、H様は「年が明けたら家に来て、採寸などお願いしますね。」とおっしゃって帰ってゆかれました。

「お目に叶ったのかな?」とホッとするやら、嬉しいやら、「これは決まったら全力投球になるかな・・・。」そんな思いでお見送りさせて頂きました。

H様にご覧頂いた象嵌家具の写真ですが、今までの展示会でも何度かご紹介させて頂いたもので、作るのにかなりの手間がかかります。

h_13

特にこのキャビネットは、私が6年前に製作したものですが、北欧家具の父と呼ばれる、カール・マルムステンがデザインし、私が留学、卒業した学校に残っていた図面をもとに特別な許可をもらって製作したものです。

見た目以上にかなり精密な仕事が要求され、「職人泣かせ」とも呼ばれるキャビネットで、実際これを作っていた時には胃潰瘍になるかと思いました。

ただ、その苦労は時間が経つと共に、歓びと自信へと変化することを、これまでの職人人生で私も十分理解していますし、シンプルで機能的な家具だけではなく、こう言った「特別の誂え」を要求される象嵌家具の仕事を、今後は特に目指していきたいと考えている所でした。

年が明けて今年の1月。まず1回目の打ち合わせにお伺いしました。

出迎えてくれたのは、かわいいダックス君です。

お話を伺うと、H様のご家族は犬がお好きとのことで、以前はパピヨン君とこのダックス君と2匹が走り回っていたのだそうです。

こちらがその2匹の写真です。(お預かりしているものです。理由は・・・この先にあります)

クラフト10

「おいで、おいで!」と犬好きな私。犬も猫も好きですが、尻尾を振って寄ってきてもらったりすると、つい仕事も忘れて遊ぶのに夢中になってしまいます。お客様には申し訳なく思っているのですが、ついつい・・・。

さて、ワインセラーを見せて頂き、部屋の内装の雰囲気や、実際に置くスペースの採寸などをさせて頂いた後、H様がご自身で作って頂いたというイメージ図を見せて頂きました。

パソコンで作ったというそれは、方眼紙に棚のイメージが描かれ、さらに私のWEBサイトからダウンロードした象嵌の写真を切り抜いて、その棚に貼ってくださっていました。

イメージ図

感動でした。本当にありがたく思いました。

H様は、工房でご説明したあとに、「それを踏まえて、こんな感じです、って出せるものがあったらいいかな、と思ってね。」と、お正月が明けてから作って頂いていたようでした。

「作って欲しい」と思っていらっしゃるものを、実際に作ってお渡しする。これはモノづくりをしている人間に共通の課題であり、使命だと思います。可能な限り、この「欲しい」ものに近づける。そのために、お客様からのヒアリングは無くてはならないものですが、こうして具体的に「これ!」というものがあると、とてもイメージしやすくそして同じ情報を共有できるので遠回りがありません。

大体の構造や、使う樹種の選択、家具の本体にいれる象嵌のデザインなどについては、2回目の打ち合わせで決めさせて頂きました。打ち合わせの前には樹種見本を作ってお送りしました。塗装もオイルかウレタンを使うか、その手触りも含めて検討して頂くためでした。

ディスプレイをするための棚なのでガラスの扉で、ガラスの棚板を使えないかどうか。使う金具についてもご希望をお聞きし、構造の検討や、材料の手配の可否を確認するため、すぐにお返事できないものについては「宿題」として持ち帰らせてもらうことにしました。

そして、象嵌のデザインの話になりました。H様のイメージしていたものと、私が考えていたものは大筋で合致していました。

ワインセラーが下に入り、その上にワイングッズを始めとしたコレクションが入るのですから、ワインに関連するもので、自然の産物で、と来ればやはりブドウしかありません。

「最後に、できれば、でいいんですけど、この犬たちを象嵌の中に入れることはできませんか?」とH様の奥様からご提案がありました。

元気に走り回っているダックス君と、もう数年前に亡くなったパピヨン君の2匹は、歳こそ違えとても仲が良く、H様ご家族にとってはかけがえのない2匹なのでした。

犬の象嵌は経験がありません。できるかどうか、どんなものになるかも自信はありませんでしたが、大きさから言っても今回のキャビネットは、ご家族みなさんが毎日目にするものなるということは間違いありません。

ここに、家族のメンバーとして2匹の愛犬を象嵌したい、そのH様ご家族の皆様の想いを大事にしたい、その思いで、こちらも「宿題」にさせて頂くことにしました。

そして、2匹それぞれの写真をお預かりし、宿題と共に工房へと戻りました。家具の構造に、犬の象嵌。二つの大きな宿題をどうクリアするのか。しばし頭を悩ませる日々の始まりです。

宿題の解答は、次回へ続きます・・・。

 

 

 

投稿者プロフィール

Akio Shimada
1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。

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