人の目と言うのは不思議なものだな、と思う瞬間があります。
はっきりと見ているようで、見ていたのはその物の輪郭であったり、色であったり、質感であったり。
今は携帯電話に性能の良いカメラがついているので、気になったものを瞬間的に撮影して、「画(え)」として保管することができます。でも、おもしろいことに、記憶として残った残像と、このメディアに記録された「画像」とでは、自分の頭の中でまったく別のものとして感じているように思います。
突然こんなことを考えたのは、毎日触れている木材をしげしげと眺めていたからなのです。
同じ木でも、色や、木目が違うのは当たり前ですが、これを象嵌に、家具に、と考え始めると、見えているのは「木」のはずなのですが、その一方で見えていない「何か」を感じ取って、そこからそれぞれに使っていく用途が自然と決まっていく、そんな不思議な感覚は作家にとってなくてはならない要素のように思います。
と言っても、これは特別なものでなく、誰もが持っている感覚の一つです。
そしてこの感覚が共有されるからこそ、作った家具や象嵌を受け入れてもらえるのだと思っています。
写真は象嵌に使われた後に残る突板の様子です。
夢中になっていると、あまり気にならないのですが、机の上にちらばったこれらを集めていると、なんだかこれでもう一つ作品が生まれるんじゃないのかな、と言う気持ちになって苦笑してしまいます。
ものによっては機関銃で撃たれた後のようになっていますが、これだけ細かく使ってやれば、「木」も満足かなーと思ったりします。
それぞれに生きた証を、違うカタチにして残して行く作業。木工家としてはそれが最大のテーマになるべきことのように思います。
そしてもちろんこれも、それぞれに使われる用途によって、全く違ったものになっていくはずです。同じように見えて違うものになる。それを見て頂く方にどれくらいお伝えできるか・・・。「見えないもの」への挑戦でもあります。
今、いくつかのご注文を頂いているのですが、偶然にも「家族」がテーマのご注文が重なっています。
「喜寿」のお祝いに家族で贈るものをご依頼いただいたり、「いつも家族の中心にあって愛着を感じるような作品に」とご希望をお寄せいただいたり。中には「愛犬をさりげなく象嵌の模様の中にいれたい」という方もいて、実際に打ち合わせでそのワンちゃんにも会うことになったり。おもしろいなと思うと同時に、「やりがい」を全身で感じています。
私が作る家具や象嵌は「見えるもの」であり、そしてその作品からそれぞれの「家族への想い」という「見えないけれど感じるもの」があればこそ、その両方から作品がさらに深まっていくのだと思います。
大切な仕事をさせて頂いていると思います。
その「想い」を共有させていただくこと、それが使命なのだなと作品作りを通して考えています。
さて、最後に蛇足ながら、今日の仕事のご報告です。花の「花弁」を作っています。一つ一つ、デザインカッターで切り抜いているのですが、とても細かい作業で、思わず叫びだしてしまいそうです・・。嫌いじゃないんですが(笑)
工房に偶然いらした方は、どうか怪しまないでくださいー。
投稿者プロフィール
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1971年生まれ。北海道苫小牧市出身。日本各地で木工修行の後、スウェーデンで北欧の木工技術を学び、2007年日本人として初めて「スウェーデン家具マイスター」の称号を得ました。高い技術を誇る木象嵌と家具の製作をしています。
お問い合わせ→こちら
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